更新日:2010/06/12

第11回 英語教育総合研究会

JACET

日時:7月10日(土)13:00-17:00
場所:大阪大学大学院 言語文化研究科 新棟大会議室(豊中キャンパス)


シンポジウム
「世界と日本の英語教育」

―なぜ日本だけが特異なのか―

コーディネーター・司会 ― 成田一(大阪大学)
(特別講演)「日本の小学校英語教育の問題点と可能性」湯川笑子(立命館大学)
「世界の常識を逸脱した日本の英語教育-言語習得理論から-」成田一(大阪大学)
「日本の外国語教育政策の裏側」江利川春雄(和歌山大学)
「欧州連合における言語教育」河原俊昭(京都光華女子大学)
「東アジアの英語教育と教員養成」相川真佐夫(京都外国語短期大学)
「南アフリカにおける多言語状況と英語教育」グラハム・B・ポウプ(大阪大学)
質疑応答&全体討論「日本の英語教育の軌道修正」

参加費:300円(飲料等提供) 参加資格:なし、一般の方の参加自由。研究会年会費:無料。
問い合わせ:大阪大学 成田研narita@lang.osaka-u.ac.jp  
懇親会 場所:言語文化研究科 旧棟大会議室 費用:教員1000円、院生800円

講演概要

「日本の小学校英語教育の問題点と可能性」 小学校外国語活動の最も大きな問題点は、その目標が未だ不明瞭なことにある。実際のコミュニケーション能力の伸長とコミュニケーションを図る楽しさ(意欲や態度)の向上の関係など、解釈が分かれる部分がある。小学校卒業時に身につけさせ得る力についてデータを参照しながらめざすべき到達目標について考察する。

「世界の常識を逸脱した日本の英語教育-言語習得理論から-」 「コミュニケーション」、「英語で授業」を推進する文科省だが、どちらも基盤となる文法・語彙力の養成を疎かにし、オーラルな英語を唱えながら発音教育も行わない。そうした教育を担うのに必要な教職科目も設定できていない。外国語習得の仕組みを踏まえ、授業内容・方法、教員養成などを根本的に見直すべきだろう。

「日本の外国語教育政策の裏側」 会話偏重や「英語で授業」など、外国語教育政策が混乱し、学力低下が進んでいる。原因は財界・官僚・民間の素人集団が政策立案に関与し、ESL(第二言語)とEFL(外国語)を混同してきたからである。その実態を暴き、専門家の英知、日本人にふさわしい教育法、協同的な学びで、英語教育を甦らせる方策を提言する。

「欧州連合における言語教育」 欧州評議会の進める言語教育政策は、複言語主義、言語的多様性、相互理解などがキーワードとなっている。欧州評議会によって、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)やELP(ヨーロッパ言語ポートフォリオ)などが開発されてきた。これらは、日本の今後の言語教育政策にも示唆となるものであり、その意義を考えてみたい。

「東アジアの英語教育と教員養成」 日本の英語教育は近隣諸国と比較して果たして特異であろうか。日本と同じく英語を外国語としている環境で、教室内で果たすべき教師の役割は大きい。母語への翻訳を主たる活動とする教授法から4技能統合を目指す教授法へと移行しようとする中、教員がどのように養成されるか、その仕組みから日本の行方を考えてみたい。

「南アフリカにおける多言語状況と英語教育」 南アフリカでは11の公用語を定め多言語主義の推進を目指す言語教育政策を実施しているが、講演ではその実情を報告するとともに、同国の教育における英語の役割についての教育省の取り組みについて解説する。

プロフィール

湯川笑子 立命館大学文学部教授。言語教育情報研究科でも研究指導、立命館大学の全学教職教学部門で教職課程の運営にあたる。主著書に、『小学校英語で身につくコミュニケーション能力』(共著、三省堂)、『バイリンガルを育てる』(くろしお出版)がある。

成田一 大阪大学大学院教授。日英語構造、機械翻訳、英語教育を研究。英語教育総合研究会代表。著書『パソコン翻訳の世界』(講談社)、共著『名詞』(研究社)、編著『こうすれば使える機械翻訳』(バベルプレス)、『英語リフレッシュ講座』(大阪大学出版)。

江利川春雄 和歌山大学教授。教育学博士。日本人の英語学習史・政策史研究をふまえて、英語教育のあり方を提言。神戸英語教育学会会長、日本英語教育史学会副会長。著書に『日本人は英語をどう学んできたか』(研究社)、『英語教育のポリティクス』(三友社)など。

河原俊昭 京都光華女子大学教授。専門は言語政策、国際英語。日本アジア英語学会理事。編著書に『世界の言語政策』(くろしお出版)、『外国人住民への言語サービス』(明石書店)、『小学生に英語を教えるとは?』(めこん)などがある。

相川真佐夫 京都外国語短期大学准教授。専門・関心は外国語教育政策、特にアジア(台湾)に於ける英語教育。『世界の外国語教育政策』東信堂、『小学生に英語を教えるとは?:アジアと日本の教育現場から』(河原俊昭編:めこん)で「台湾」を担当。

グラハム・B・ポウプ 大阪大学特任准教授。キャンベラ大学と大阪大学大学院言語文化研究科との交換計画で来日。南ア共和国出身。英語学修士。創作文学研究で博論執筆中。

シンポジウム・コンセプト

文科省は、80年代初頭に文法の教科書を廃し、オーラル・コミュニケーションに英語教育の方向を変え、教科書のリーディングの分量も顕著に削減してきた。2002年からの「ゆとり教育」では教育内容の大幅削減とともに中学の英語授業時間数を週3時間に削減し、追跡調査で見ても、一貫して低下してきた。同時期には、経済界の声なども背景に「英語の使える日本人育成」という目標も掲げたが、英語を使う基盤となる文法・語彙力の育成はもとより口頭英語に不可欠な発音と聴取のための音声教育にはまともに触れようともしないし教員養成課程においても必修としていない。学校の教育にこうした基盤の育成を図る指針も態勢も用意しないという無責任な行政を行ってきたのだ。
小学校の英語活動にしても、英語を教える語学力を持った教員を配置せず、「英語活動を行った」ことの言い訳のように「国際理解」を掲げ、「英語でコミュニケーションする態度を養う」といった掴みどころのない指針を打ち出している。英語のスキルの育成を否定し乏しい単語と簡単なあいさつなどの決まり文句だけしか教えないで、どうやって、英語でコミュニケーションすることができるのだろうか。日本以外の国々では、欧米でもアジアでも、小学校の英語教育では文法・語彙をしっかり教えスキルを育成しているのである。中国大都市の小学5年生は日本の高校レベルの英文を学んでいる。また、外国語教育においては、必ず文法教育、発音教育をしっかり行っているのである。日本の高校では英語の授業を英語で行うという学習指導要領のガイドラインも出されているが、基盤教育を疎かにしたまま英語で授業をすることになれば、従来以上に英語嫌いや落伍者が増えかねない。
こうした日本の英語教育の現状は暗い将来につながるとしか言えない。世界の言語教育や言語習得理論を踏まえ、日本の英語教育のあるべき姿を考えたい。