更新日:2011/06/12

第1回 英語教育総合学会

旧「英語教育総合研究会」

日時:7月31日(日)13:00-17:30
場所:大阪大学 大学院 言語文化研究科 新棟 2F 大会議室(豊中キャンパス)


シンポジウム
「日本の英語教育をどうするか」

―混迷する英語教育行政―

コーディネーター・司会:成田一(大阪大学)

「日本の英語教育の抱える課題」成田一(大阪大)

「コミュニケーション能力を育てる英語教育のために」八木克正(関西学院大)

「いかにして英語運用力を育てるか」門田修平(関西学院大)

「小中高教員の音声指導における課題」有本純(関西国際大)

「混迷する英語教育行政に転換を」江利川春雄(和歌山大)

「国際英語の授業実践」日野信行(大阪大)

全体討論  司会・コメンテータ:竹内理(関西大)

参加費:500円(菓子飲料提供) 参加資格:なし、一般の方の参加歓迎。学会年会費:無料。
問い合わせ:大阪大学 成田研 narita@lang.osaka-u.ac.jp
懇親会 場所:言語文化研究科 旧棟大会議室 費用:教員1000円、院生800円

講演概要

シンポジウム・コンセプト

日本の英語教育は、82年に文法の教科書が消え、90年代のゆとり教育の実施とコミュニケーション重視を謳う英語教育への転換の流れの中で、海外の英語教育状況の誤解に基づいて提唱された浅はかな英語公用語化論とともに、文科省は「英語が使える日本人」を掲げ、論争を巻き起こしたが、それが沈静化した中で、最近は社長の思い込みの独断で英語社内公用語化に走る企業が再び世間を騒がせている。

高校では「英語での授業」が掲げられ、「小学校英語」の正式な始動を迎える中、英語教育が崩壊の危機に直面している観もある現状だが、文法・読解力と発音・聴解力に支えられた応用のきく英語運用力を育てるために、日本の英語教育がどうあるべきかを、言語習得理論や英語教育実践方略、教員養成など多方面から、日本の英語教育の抱える課題を理論と実践の両面から掘り下げ、あるべき方向を探りたい。

「日本の英語教育の抱える課題」:文科省の推進する「小学校英語」は教員の資質・時期・時間・教育内容・生徒数のどれをとっても、言語獲得の仕組みからは全く外れたものになっている。「英語での授業」というのも、生徒だけではなく教員の能力を無視しており、英語嫌いや落ちこぼれが激増しかねない。講演では、言語習得理論を検討した上で、それぞれ異なる日本の学校の実情に配慮して、言語基盤をきちんと養成し運用力につなげる方策について考えたい。

「コミュニケーション能力を育てる英語教育のために」:英語教育は、第一義的にコミュニケーション能力をつけるものでなければならない。コミュニケーション能力とは、読み、書き、聞き、話す総合的な言語運用能力である。何が分かったか、何が言いたいのか、これが英語運用能力測定の尺度である。些末な文法にこだわる限り、生徒の内容理解が進まず、運用においては怖気づかせるばかりだ。明治以降の呪縛から早く解き放たれなければならない。

「いかにして英語運用力を育てるか」:これまでの英語教育では、難度の極めて高い素材をもとに、「わかること」「知ること」に主眼を置いてきた。そして学習者に単語や文法の知識をつけさせればそれで「終わり!」だった。しかし、近年の研究により、「知っていること」と「できること」とは全く別物であることがわかってきた。講演では、語彙や文法規則の顕在学習から、潜在的な言語記憶形成へとシフトすることの意義とその方法について検討したい。

「小中高教員の音声指導における課題」:先ず、小学校における英語活動、中学校におけるコミュニケーション重視の授業、高等学校における受験指導や底辺校の実態など、各校種別に音声指導の実態を検討し、そこに含まれる問題点を議論し、現在の日本における英語教育の課題を浮き彫りにする。次に、免許更新講習、教育委員会および英語教育系の学会主催の研修会やワークショップを含め、教員の研修制度が、いかに不備であるかについて取り上げ、解決策を提案する。

「混迷する英語教育行政に転換を」:英語が「わからない」と回答する生徒が増え、成績が低下し続けている。英会話ゴッコのような授業を強いられ、文法が軽視され、英語の仕組みがわからない。英語の必要性も実感できない。だから嫌いになり、学ばなくなっている。政策の転換が必要だ。英語教育史から学び、ESL型ではなく、日本人にふさわしいEFL型の学習法を再確立しよう。現場教員の苦悩を共有し、協同的な学びで授業をよみがえらせよう。

「国際英語の授業実践」:母語話者の言語的・文化的枠組を超える「国際英語」の概念が英語教育界の注目を集めて久しいが、その理念をどのような形で授業実践に移せばよいかについては、明らかでない部分が多かった。講演では、「国際英語」教育に長年取り組んできた立場から、国際英語の教授法について概観するとともに、大阪大学における自分の授業実践についてビデオも用いながら報告する(コーディネーター注:本講演者は優れた授業実践に与えられる「大阪大学共通教育賞」を12回受賞)。