更新日:2013/11/25

第7回 英語教育総合学会

日時:12月14日(土)13:00-17:30
場所:神戸女学院大学(デフォレスト館2F 208教室)

シンポジウム
激動する日本の英語教育
-「英語で授業」と「小学校英語教科化」の先に-

特別講演「小学校英語の問題をどう考え、行動すればよいのか」大津由紀雄(明海大学)

「小学校英語教育の歴史から学ぶ」江利川春雄(和歌山大学)

「地殻変動する日本の英語教育―二つの道の収束に向けて―」成田一(大阪大学)

「英語保育園の取り組み」ウェイン・キム(キンダ―キッズ)

「関西学院初等部の英語教育」植松知奈美(関西学院初等部)

「音声と文法を身体で繋ぐ児童向け指導法」池亀葉子他2名(OBK児童英語講師自己研鑚の会)

全体討議

参加費:700円 茶菓子提供。
一般の方の参加歓迎。直接会場にお越し下さい。駐車場はありません。
問い合わせ:事務局 orchid-e [AT] kcc.zaq.ne.jp (メール送信の際は [AT] を @ に変更してください)

シンポジウムの理念

日本の中高の英語教育は、コミュニケーション偏重の中、文法・語彙だけでなく発音教育までが軽視され英語基盤が脆弱化したが、高校で「英語での授業」が始まり現場は混乱している。自民党の教育再生実行本部は、「大学入試を見直し、実用的な英語力を測るTOEFL等の成績を受験資格および卒業要件とする」ことを提案し、文科省は小学英語の教科化を表明している。シンポジウムでは、大学、中高と小学校における英語教育に対する政治や行政の動きの問題点を理論的、歴史的観点から検討するとともに、私立幼稚園や英語保育園、私大付属小学校の英語教育の展開の動向と児童英語教育実践を踏まえ、2020年代の「日本の英語教育の姿」も展望しつつ、激動する英語教育の現状への対応を考えたい。

講演概要

大津講師:高学年限定の「英語活動」という形で、最悪の事態を避けることができたと思ったのも束の間、再び危機が迫ってきた。いま、我々はどう考え、行動すればよいのかを考える。

江利川講師: 小学校英語教育は明治期から実践されたが、目的論、教師の力量、開始年齢、時間数、小中連携などの諸問題が噴出し、廃止寸前に追い込まれた。その教訓から謙虚に学びたい。

成田講師:大学入試や卒業要件にTOEFLを導入する政治的な動き、文科省の小学英語教科化の動きが加速する中、私立幼稚園などでは英語保育が広がりを見せる。英語教育の現実的な将来展望を描きたい。

キム講師:1歳4か月~就学前の子ども達に5年間継続の英語保育プログラムを提供。子ども達が楽しめることを第一にしながら、真のバイリンガルを輩出する年齢相応のカリキュラムをご紹介。

植松講師:「興味・関心から学ぶ気持ちを育て、自ら伝える力を養う」、「楽しさのみに留めず、基礎的な英語スキルを身に着けさせる」ことに主眼をおいた独自プログラムの作成・実践を紹介。

OBK講師陣:クラスカルチャーを創るNPO法人グラスルーツの1部門OBKによる「生徒自らが気づき、知識―身体―心を繋ぐ」日本語話者のための英語教育の実践と教材作成を紹介。

第6回英語教育総合学会概要 / アンケート感想


大谷康照 (大阪大学名誉教授) 「この国の言語教育政策を考える ― 対症療法から原因療法へ ―」

四則演算において日本の生徒がよくできるのは、数学的能力が秀でているというよりもむしろ日本語という言語の特性が四則計算に有利に働いていることに起因する。日本のTOEFLの得点の低さは、非印欧語文化圏の国々、非欧米植民地や植民地経験のない国々に共通しており、日本の英語教師が努力を怠っているということではない。四則計算の優秀さとTOEFLの得点の低さは、言語差を考慮に入れて議論すべきものである。さらに、教育政策条件の改善として、フィンランドのような教師の専門職としての確立と保障や、国家予算からの教育費増、授業時間数増、クラスサイズの縮小が必須である。



江利川春雄 (和歌山大学) 「超国家企業と政治家が破壊する学校英語教育」

教育政策は教育の専門家集団が立案すべきであり、教育について素人である財界・グローバル企業からの短絡的な意見を教育政策に反映させるべきではない。2000年の経団連の構想が2002年に文科省の「戦略構想」となって現われている。「成長戦略に資するグローバル人材育成」はTOEFLを基準にした無謀な計画であり、この無謀さは語彙の難易度を他の検定試験と比較しただけでも一目瞭然である。安倍内閣の第2期教育振興基本計画や大阪市教育振興基本計画は英語教育や検定試験の難易度について全く配慮のないものである。中教審外国語専門部会では議論もされないまま「授業は英語で」ということが高校新学習指導要領の柱となっているのは問題視すべきである。学習指導要領の成果と問題点を十分に検証した上で、改訂するというやり方をすべきである。さらに、教育政策の喫緊の課題は、OECD平均並みの教育予算、クラスサイズの削減、専任教員の増員、ICTを含めた教育環境の充実、周辺アジア諸国の言語を含む複言語・複文化主義への移行である。小人数クラスでの授業改善が可能となり、現実に、小人数クラスでの協同学習が、生徒全員の学力向上と人間関係の育成に成功を収めている学校がある。



成田一 (大阪大学名誉教授) 「『英語で授業』と『入試にTOEFL』で壊れる現場 ― 言語差と脳内処理が日本人の英語運用に影響 ―」

言語獲得期内の言語習得と言語獲得以降の言語習得には大きな隔たりがある。また、母語と外国語の言語差が大きいとその外国語の習得は難しい。言語差の小さな言語習得では、文法構造や語彙、音調、リズム、音調パターンも酷似しているので習得し易いが、日本語と英語には大きな言語差があり、日本人が英語習得に大きなハンディーを負っていることは脳生理学的にも言える。従って、基盤英語力がないままでコミュニカティブ・アプローチを導入するのは間違いである。言語能力のコアは文法力であり、文法訳読の成果を無視して、文法訳読を否定・排除するのは大きな間違いである。文法と語彙、発音の基盤が培われなければ、コミュニケーションは成立しないし、コミュニケーション能力が培われるということもない。基盤英語力が身に付いている場合には「英語で授業する」ことには問題はないが、これから英語を学ぼうとする生徒に「英語で授業する」ことは授業についていけない生徒や英語嫌いの生徒を増やすことになるだろう。TOEFLに全く無知な議員がTOEFLを受験資格及び卒業要件にすることを提案しているが、TOEFLは海外の大学での勉学が可能かどうかの英語力の検定試験であり、日本の大学の受験資格や卒業要件にするのは大きな間違いである。フォニックスに関して、中学生でもフォニクッスの学習で英語嫌いになる生徒がいるのに、小学校でフォニクッスを教えるのは小学生にとってなおさら過重負担になる。言語獲得期にある幼稚園児や小学生を対象とする早期英語教育を行なえば、中・高でコミュニケーションの授業が可能になる。小学校で英語力の習得が期待できない場合には、中・高で文法・音読を含む総合的な訳読式で基盤を構築し、大学で定型的でないコミュニケーションと討議を目標とする英語教育が日本人に相応しい。



佐渡正英 (熊本県立荒尾高等学校) 「『英語で授業』への対応の現状」

担任業務の煩雑さ、少子化による高校間の学力格差の増大、生徒のコミュニケーション力の低下等がある中で、新課程が始まり、今年度1学期では中学校既習事項の復習やクラスルームイングリッシュによる指導と定着化を行なった。100%英語で授業するのはトップ校でも見られない。「英語での授業」は、教師の資質によって授業内容に格差が生じている。「英語での授業」にはいくつかの問題があるが、どの教師も英語の音声面にも関心を持つようになったことが1つの長所である。「英語での授業」の実施の中で、文法説明の多い教科書を採択する高校が多く、また生徒には辞書以外に学習英文法書や単語集を持たせている。「英語での授業」に関わる懸念は、大学入試問題の動向、TOEFL導入と新課程との整合性、TOEFLによる学校の序列化・格差拡大である。国際交流や異文化理解の機会を増やして生徒のモチベーションを上げる努力をする他に、教師の研修制度の充実やICT環境の整備、教師の負担軽減が必要である。



松岡徹治 (関西家電メーカー) 「実務では英語より専門性が重要」

会社ではTOEICの点数が昇格の際の目安になっているが、実際にはTOEICの点数よりは実務能力が重要である。TOEICの点数は、点数を上げるためのトレーニングで上がる。しかし、TOEICの点数が上がったからといって実務能力が付くわけではない。また、組織で業務を遂行する場合には人間力(尊敬される人格、人徳)が必要である。ビジネスでは、英語を話す能力よりも英語書く能力の方が大きく物を言う。初学者には只管朗読等による量的学習が必要であり、文法を系統的に学習し、読む力と書く力を鍛えることが、社会に出てビジネスに携わる時に実務能力の向上に直結するので、英語教育には只管朗読等による量的学習の指導と文法学習の指導を要望したい。

文責:名和俊彦



第6回 英語教育総合学会 アンケート感想

行政に振り回され、授業準備の時間がない
データに基づいていて面白い
政策に教師が声を上げるべき
民間教育、個人教育への指摘がなかった
ひどい行政
オーラル中心は誤り
センター試験は良い
発表減らして焦点絞って欲しい、小中の教員に広がらないのが残念
韓国語を学んだ友人の上達は早い
小学校ではシステム作りが遅れ、やらない方がいいのでは?
英語教師が過労死しないよう声を上げたい
母語で作った生徒との関係を英語で出来るのか聞きたかった
自分なりの方向性が見えてきた
企業の話も面白かった
今後も続けて欲しい
データに基づいた点が良い
データを基にして良かった、企業の視点も参考になった
小学校では母語でコミュニケーション能力を高め国際理解を深めるべき
文科省はアホばかりだとわかった
他県の高校の状況がわかって良かった
それぞれ論点が明確だった
大学へのTOEFL導入反対意見が反映されるのか不安だ
政策上の問題点がわかった、様々な選択肢が増えて欲しい
若いからITを活かして欲しいと言われるが、やりたい事とやって欲しい事が相反する。


更新日:2013/07/18

関連学会 / 書籍出版のお知らせ


平成25年度 公開講座「教員のための英語リフレッシュ講座」

日時:平成25年8月5日(月)~8月9日(金)
会場:大阪大学中之島センター
問い合わせ:言語文化研究科 外国語学部 豊中事務室 総務係
E-Mail: genbun-soumu [AT] office.osaka-u.ac.jp
(メール送信の際は [AT] を @ に変更してください)


第12回 英語教育セミナー

日時:2013年7月20日(土)
場所:関西国際大学尼崎キャンパス
参加費:無料
詳細はパンフレット(日本語・PDF)、またはセミナーのウェブサイト(英語)をご参照ください。


成田先生のご著書『日本人に相応しい英語教育』が出版

英語教育総合学会代表・成田一先生(大阪大学名誉教授)のご著書『日本人に相応しい英語教育』が今週末出版されますので、合わせてご案内申し上げます。(全国の書店で販売)

書籍情報(PDF)
ご著書装丁(PDF)

第6回 英語教育総合学会

日時:8月24日(土)13:00-17:00
場所:大阪大学 大学院 言語文化研究科 A棟 2F 大会議室(豊中キャンパス)

特別講演
この国の言語教育政策を考える-対症療法から原因療法へ-
大谷泰照(大阪大学名誉教授)

シンポジウム
グローバル企業と政治家が歪める英語教育

基調講演 超国家企業と政治家が破壊する学校英語教育
江利川春雄(和歌山大学)

「英語で授業」と「入試にTOEFL」で壊れる現場
成田一(大阪大学名誉教授)

「英語で授業」への対応の現状
佐渡正英(熊本県立荒尾高校)

実務では英語より専門性が重要
松岡徹治(関西家電メーカ)

全体討議

参加費:500円 茶菓子提供。懇親会費:1000円
一般の方の参加歓迎。直接会場にお越し下さい。
問い合わせ:事務局 orchid-e [AT] kcc.zaq.ne.jp (メール送信の際は [AT] を @ に変更してください)

シンポジウムの理念

日本の英語教育では、コミュニケーション偏重の中、文法・語彙だけでなく発音教育までが軽視され英語力が低下したまま、高校で「英語での授業」が始まり、現場には混乱が広まっている。自民党の教育再生実行本部は、「大学において、従来の入試を見直し、実用的な英語力を測るTOEFL等の一定の成績を受験資格および卒業要件とする」という提案を実施させようとしている。シンポジウムでは、英語の言語差、文法的な仕組みの違いも踏まえて、「日本の英語教育のあるべき姿」を明らかにしたい。

シンポジウム概要

大谷講師:この国の言語教育の最大の問題点は、基本的な教育条件の改善にはほとんど手をつけず、ただひたすら教師の指導法の転換だけで言語教育の飛躍的な前進が可能であるかのように考える教育行政担当者の言語認識そのものである。この点を、ご一緒に検討してみたい。

江利川講師:大学入試や卒業要件にTOEFL等の高度な外部検定試験を導入する。黒幕は楽天などの超国家企業。自己の利益のために、国民教育を破壊してでも英語が使える「グローバル人材」の育成を公教育に要求する。その危険性を暴く。

成田講師:「コミュニケーション英語」への転換を図る文科省が「英語での授業」を実施しただけでなく、大学入試や卒業要件にTOEFLを導入する政治的な動きもあり、英語教育が崩壊の危機に瀕している。言語類型と習得理論、脳内処理の観点から、無謀な企ての欠陥を明らかにしたい。

佐渡講師:「英語で授業」が開始され、想定内外の問題が浮かび上がってきた。生徒不在の事態を避けるため、我々英語教師に何ができるのかを、幾つかの高校の取り組み例を基にその打開策を模索したい。

松岡講師:企業では、常に英語での意思疎通を求められる訳ではない。英語が必要な状況で本当に使え、業務を通じて会社に利益をもたらす人材が大切だ。仕事が分かった上での英語運用能力が問われるのだ。

更新日:2013/05/28

英語教育総合学会の皆様へのお願い

7月もしくは8月に開催予定のシンポジウムにおいては、(下記のような)最近の英語教育行政の動向の中で、「英語で授業」が実施されて以降の学校の現場での状況を高校の先生方に15分ほどご報告いただきたいと存じます。6月12日頃までにご意向を連絡いただけないでしょうか。また、自民党の教育再生実行本部長の「高校卒業レベルは英検2級、TOEFL45点ぐらいなので、それを目指す」とし、さらに「まずは、センター試験から英語をやめ、TOEFL一本にする」という提案(朝日新聞「争論―大学入試にTOEFL―」(2013年4月8日))についても問題点を討議したいと存じます。
会長 成田一(大阪大学名誉教授)

★★★★

「英語が使える日本人の育成」を掲げ、「コミュニケーション英語」への転換を図ってきた文科省が、(教職課程で音声学を必修にしていないなど、)発音教育を疎かにしたままで、中央教育審議会の外国語専門委員会の審議も経ないで、「英語の授業は英語で行なう」という指針を示した。「コミュニケーション英語」への転換と「ゆとり教育」によって顕著に英語力が低下したが、「ゆとり」からの脱却後まもなく、成果がまだ何も出てない中で、25年度4月より公立高校では、「英語で授業」の方針が実施されたばかりで、学校によっては授業の崩壊も危惧される状況だ。それなのに、自民党の教育再生実行本部の「成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言」(2013年4月8日)では、「大学において、従来の入試を見直し、実用的な英語力を測るTOEFL等の一定の成績を受験資格および卒業要件とする」とし、国公立トップ30校の卒業要件をiBT 90点にすることを提言している。文科省の設置した「外国語能力の向上に関する検討会」がまとめた指針(2012年6月)では、高校生が卒業時に英検準2級から2級となっているが、現実には高校3年生で英検準2級以上が約36%に留まる。ちなみに、教師に求められた英検準一級、TOEFL550点(iBT 80点)の指針に達しているのは、中学で28%、高校で53%に留まる。自民党案は一般大学生の卒業要件をiBT 90点にするというのだから、英語教師よりもかなり高い基準を設定しているのだ。正に、政治によって荒唐無稽な教育目標が設定され、英語教育が崩壊の危機に晒されている。

更新日:2013/02/09

成田教授 講演会


退職記念最終講義
日時:2月14日(木)16時―17時
場所:大阪大学大学院言語文化研究科 新棟2階大会議室

『日本人に相応しい英語教育』 成田一教授
参加費:無料、誰でも参加できます。



OBK講演会
第6回 OBK児童英語講師自己研鑽の会
場所:弁天町市民学習センター 第1研修室
日時:2013年3月31日10:00~16:30

講演:『外国語として学んだ英語でも半自動化できる』
講師:成田一(大阪大学大学院教授)


講演後、参加者との質疑応答、実践に向けての討議(午後)
定員:50名(先着順)
参加資格:英語教育に関心のある方はどなたでもお越しください。

参加費:4,000円、(講演後自由参加の)懇親会費:4,000円
申し込み、問い合わせ:「こくちーず」より
http://kokucheese.com/event/index/71056/

更新日:2013/02/04

第5回 英語教育総合学会

第17回言語教育談話会との共同開催

日時:3月10日(日)13:00-17:00
場所:大阪大学 大学院 言語文化研究科 A棟 2F 大会議室(豊中キャンパス)

特別講演
言葉の感性を高める語法の世界
― 微妙な意味の違いを見極める―
八木克正(関西学院大学)

シンポジウム
「習得が容易な言語と難しい言語」
―教授技法は言語によって違う―

コメンテータ:江利川春雄(和歌山大学)

ミニマルな文法ですぐに話せる
―新たな基礎日本語教育の内容と方法―
西口光一(大阪大学)

なぜ英語の習得は難しいのか
―厳しい構造制約と激しい音声変容―
成田一(大阪大学)

参加費:無料
一般の方の参加歓迎。直接会場にお越し下さい。
問い合わせ:大阪大学 成田研 narita@lang.osaka-u.ac.jp

シンポジウムの理念

日本の英語教育では、コミュニケーション偏重の中、文法教育が軽視され英語力が低下したまま、高校で「英語での授業」が始まる。シンポジウムでは、なぜ日本語教育ではコミュ二カティブな教育に早い段階で移行でき、英語教育ではできないかについて、日本語と英語の言語差だけでなく、文法的な仕組みの違いを取り上げて、同じ言語対でも学習困難度は違い、教育方法も違うべきことを明らかにしたい。

シンポジウム概要

八木講師:「語法」という用語はいろいろな人がいろいろな研究を指して使われる。現象を観察することだけのものから、言語学的手法(認知文法であれ、生成文法であれ、その他どんな立場であれ)を用いてなぜそうなのか、そうでないのか、を明らかにしようとするものまで幅は広い。ここでは私の独自の研究方法とその成果を用いて、英語をより深く理解するためにいかに役に立つかを語ってみようと思う。

西口講師:膠着語の一つである日本語は、欧米の言語に比べて文を作る際の決まり事が非常に限られており、既に共有している事柄は省略されるのが通常である。故に、一定の注意を払えば初習者でも「文法的に不正確でない発話」を行うことが容易である。本発表では、そのような日本語の性質を生かした基礎日本語教育のカリキュラムと教材を紹介し、そこでの学習と学習指導の原理について論じる。

成田講師:日本人にとって英語の習得が難しいのは言語差だけではない。現に日本語は漢字を除けば欧米人にとってもそんなに難しくはない。英語は発音が激変し厳しい構造制約があるだけでなく、日本語にはない(数の一致やWH移動など)「瞬時の計算処理」の必要な操作があり、発話時の過重な負担となる。文法を定着させ半自動化することが、コミュニケーションの条件になることを明らかにしたい。

更新日:2013/02/03

第4回英語教育総合学会シンポジウム概要

第4回英語教育総合学会シンポジウム概要(文責:企画委員 名和俊彦)

シンポジウムは、言語習得とその過程に関わる研究と理論、習得を円滑かつ効果的にする教え方等の複数の領域に亘るので、英語教育に携わる者にはそれぞれ何かを得ることのできる有意義なものでした。質疑応答は活発で、熱の入った議論になりました。シンポジウムの発表概要とコメンテイターの説明の概要は次の通りです。



白井恭弘(ピッツバーグ大学)「英語で授業をすることの理論的意味と留意点」

言語能力には「文法能力」「談話能力」「社会言語学的能力」「戦略的能力」があり、この4つの能力を習得する必要がある。言語習得にはインプットだけではなくアウトプット(実際に話さなくても頭の中でリハーサルすることも含む)が必要であり、アウトプットにより自分の発話または書いた文が正しいかどうかの自己チェック(気づき)を伴う、言語ルールへのfeedbackが自然な習得を促進する。たとえば、学生の書いた英文を添削して返却しても学生に「気づき」がないと全く効果はない。次に重要なことは、意味のわかる文を大量に処理することにより、母語話者のような文法的、意味的な瞬間的予測力が身に付く。複雑なルールをすべて明示的知識として習得するには無理があるので、自動化には限界がある。



成田一(大阪大学)「英語で授業を行う条件―文法力と音声教育」

英語で授業を行なうには、「文法と読解・作文と音声」の教育により聴解能力の基盤を築くことが実施の前提である。日本国内の日本語の環境の中ですべて英語で授業を行なっても、英語での授業について行けない生徒を増やすだけである。英語で効果的な授業を行なうためには、文法や構文、語の微妙なニュアンス、用法の違いを日本語と対照的に日本語で説明することが必須である。系統の異なる言語の学習においては、その言語と母語との言語的距離を考慮に入れるべきであり、会話を学習の中心にするだけで英語の運用能力がつくというのは短絡的である。「読む」を主、「書く」を従の目標とした日本の伝統的英語教育は目標を達成しており、これに音声教育を充実させることが英語教育の本道である。海外の外国語習得理論は、対象とする学習者の母語の系統、学習環境が日本の場合と異なるので、そのまま日本の英語教育に応用するには無理があり、日本語という言語と日本の学習環境にふさわしい英語教育を考えるのが最善である。主要な文法事項と発話の仕組みと方法を明示的に学習し、繰り返しによる練習、多読や速読等によって英文の処理能力と聴解能力が向上し、文法処理の自動化も推進される。これらの能力の有機的向上が英語で授業を行なう確固たる基盤となる。



磯辺ゆかり(和歌山大学)「フォーミュラ連鎖と言語処理の自動化」

フォーミュラ連鎖とは、2語以上で構成される慣用的語連鎖で、心理的に1つの単位として保持・検索されるものである。フォーミュラ連鎖をしている語連鎖と非フォーミュラ連鎖の語連鎖、非文法的語連鎖の3種類に関して、日本人EFL学習者の学習到達度の上位群と下位群に分けて、語順の適確性を判断させるテスト、適確な音読ができるかどうかのテスト、親近感を持って3種類の連鎖を知覚できるかどうかという親密度テストを行なった。語順適確性判断テストでは、フォーミュラ連鎖が他の連鎖よりも短い時間で反応できた。音読テストでは、音読潜時においてフォーミュラ連鎖が他の連鎖より有意に短く、発話速度においても有意に速い。これら2つのテストにおいて、フォーミュラ連鎖の誤答率は他の連鎖より有意に低い。親密度判断テストでは、フォーミュラ連鎖の親密度は他の連鎖の場合より高い。以上の3つのテストより、フォーミュラ連鎖による認知負荷の軽減が、言語処理の効率化をもたらすと考えられる。さらに、単語レベルを超えた語連鎖に対する親密度が言語処理の効率化に影響する可能性がある。



釣井千恵、山科美和子、ハーバート久代(関西学院大学)「多読・速読による運用の自動化」

多読には、達成感、reading speed & fluencyの向上、語彙定着、直読直解による理解力の向上等の効果が挙げられるが、新たな知識の獲得というよりは既習の知識の自動化・効率化に効果が期待できる。リーディングプロセスは、ディコーディング(下位プロセス)と理解(上位プロセス)から成る。ディコーディングには(1)眼球停留による文字認知、(2)語彙処理、(3)音韻符号化がある。理解は(4)統語解析、(5)意味処理、(6)スキーマ処理、(7)談話処理を通して為される。fluent readersは単語認知から即理解に向かうが、そうでないreadersは下位処理がディコーディングで留まる。これは、眼球運動の研究からも確認される。単語認知の自動化を向上させることで、より高次な処理に向かうリーディングが可能になる。関西学院大学国際学部の第1外国語としての英語は、精読(Reading 1)で学んだ上で、多読(Reading 2)で学ぶようになっている。Reading 1の目標は「中級レベルの英文の正確な理解」「語彙、文法、構文などの言語知識の習得」「頻出語彙、構文の下位処理の自動化」「リーディングストラテジーの習得」である。Reading 2では「流暢な読み」「平易な英語で書かれた本の多読と読みの習慣化」「下位処理のさらなる自動化トレーニング」を目標としている。



森庸子(同志社大学)「意図と気持を伝えるリズムとイントネーション」

日本人学生の発話と米語母語話者の発話のそれぞれの音韻特性を分析した結果、次の2点に大きな相違が見られる。1点目は、意図と気持ちを伝える英語は、米語母語話者では聞き手に最も伝えたい箇所をゆっくり伸ばしながら高いpitchから低いpitchまで下降するが、一方日本人学生では文頭にくる機能語や代名詞、接続詞を高いpitchで発音する傾向が強く(Initial High Pitch)、日本語の発音の仕方がそのまま英語に転移したイントネーションである。このような日本語式発音の干渉を防いで、意図と気持ちを伝える英語のイントネーションの指導として、文頭の機能語や代名詞は低く弱く発音し、内容語(動詞)の所で上げて、強調したい箇所、相手に伝えたい箇所で、そして文末の内容語でゆっくりと高いpitchから低いpitchまで下降させる必要がある。2点目は、米語母語話者は長短の繰り返しでリズムを作っているが、日本人学生の場合、強勢の有無に対応した高低の繰り返しによるリズムになっている。このことから、意図と気持ちを伝える英語のリズムの指導として、機能語の母音を短縮して内容語の母音を伸張して、米語母語話者のリズムに近づける指導が効果的である。



池嶋伸晃(大阪府教育委員会)「『英語で授業』への学校の取組―使える英語のプロジェクトを通じて―」

平成15年3月に「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」が打ち出され、平成21年に『高等学校新学習指導要領』の「授業は英語で行うことを基本とする」が英語教育界や社会で大きく取り上げられ、平成22年に「授業のすべてを必ず英語で行わなければならないということを意味するものではない」という主旨の解説が施された。これは生徒ができるだけ多く英語を使うことに重点があるということであり、文法指導は日本語を使っても構わない。「オーラルコミュニケーションⅠ」(普通科)の授業では、「発話のほとんどを英語で行っている」のは19.6%、「発話の半分以上を英語で行っている」のは32.8%、「発話の半分未満を英語で行っている」のは41.2%というのが、平成22年度の状況である。「使える英語プロジェクト事業」(平成23~25年度)は公立の小学校・中学校・高校を対象とし、「訳読の授業を変える」「英語の4技能を使う機会を与える」「さらに伸ばす」「教員を鍛える」という4つの目標を柱にしている。高校生の海外研修、国内外での国際会議への参加、スピーチ・デベートコンテスト、海外からの国際交流の受け入れ等の授業外での英語活動やAdvanced Classの開設、TOEFL・TOEIC® の受験機会の提供、教員研修のそれぞれの項目に予算を計上している。このプロジェクトでは、プロジェクト型学習の導入の他、タブレット端末を利用した個別学習と協同学習、学年を越えて英語Ⅰの教科書を繰り返し使用し、「使える英語」を身に付けさせる指導法を導入している。プロジェクトの実施校では高校生の英語力の向上がTOEIC®のスコアーからも伺われる。平成23年度から「公立・私立高校、高等専修学校に対して「実践的英語教育強化事業」が実施されている。また、同年度から「大阪府国際化戦略アクションプログラム」も実施されている。



コメンテイター:門田修平(関西学院大学)

学習には顕在学習(explicit learning)と潜在学習(implicit learning)がある。顕在学習は海馬を介した、言語化できる意識的学習であるが。一方、潜在学習は、基本的には海馬を介しない、反復により徐々に技能や動作の仕方などが蓄積される学習である。事例学習(exemplar learning)からルール学習(rule learning)という顕在学習を経て、反復により自動性・流暢性を獲得ができるという3段階のモデルが考えられる。流暢性には認知的流暢性、発話の流暢性、流暢性についての知覚があり、このうち認知的流暢性を実現するための処理能力は心理言語学的能力とも呼ぶべき能力である。この能力は、コミュニケーション能力(文法能力、社会言語能力、発話能力、方略的能力)に加えられるべきであり、コミュニケーションに支障をきたさないように、一定の時間内(通例1秒以内)に反応すべく、自動的かつ流暢に処理を行なう能力である。