更新日:2013/02/09

成田教授 講演会


退職記念最終講義
日時:2月14日(木)16時―17時
場所:大阪大学大学院言語文化研究科 新棟2階大会議室

『日本人に相応しい英語教育』 成田一教授
参加費:無料、誰でも参加できます。



OBK講演会
第6回 OBK児童英語講師自己研鑽の会
場所:弁天町市民学習センター 第1研修室
日時:2013年3月31日10:00~16:30

講演:『外国語として学んだ英語でも半自動化できる』
講師:成田一(大阪大学大学院教授)


講演後、参加者との質疑応答、実践に向けての討議(午後)
定員:50名(先着順)
参加資格:英語教育に関心のある方はどなたでもお越しください。

参加費:4,000円、(講演後自由参加の)懇親会費:4,000円
申し込み、問い合わせ:「こくちーず」より
http://kokucheese.com/event/index/71056/

更新日:2013/02/04

第5回 英語教育総合学会

第17回言語教育談話会との共同開催

日時:3月10日(日)13:00-17:00
場所:大阪大学 大学院 言語文化研究科 A棟 2F 大会議室(豊中キャンパス)

特別講演
言葉の感性を高める語法の世界
― 微妙な意味の違いを見極める―
八木克正(関西学院大学)

シンポジウム
「習得が容易な言語と難しい言語」
―教授技法は言語によって違う―

コメンテータ:江利川春雄(和歌山大学)

ミニマルな文法ですぐに話せる
―新たな基礎日本語教育の内容と方法―
西口光一(大阪大学)

なぜ英語の習得は難しいのか
―厳しい構造制約と激しい音声変容―
成田一(大阪大学)

参加費:無料
一般の方の参加歓迎。直接会場にお越し下さい。
問い合わせ:大阪大学 成田研 narita@lang.osaka-u.ac.jp

シンポジウムの理念

日本の英語教育では、コミュニケーション偏重の中、文法教育が軽視され英語力が低下したまま、高校で「英語での授業」が始まる。シンポジウムでは、なぜ日本語教育ではコミュ二カティブな教育に早い段階で移行でき、英語教育ではできないかについて、日本語と英語の言語差だけでなく、文法的な仕組みの違いを取り上げて、同じ言語対でも学習困難度は違い、教育方法も違うべきことを明らかにしたい。

シンポジウム概要

八木講師:「語法」という用語はいろいろな人がいろいろな研究を指して使われる。現象を観察することだけのものから、言語学的手法(認知文法であれ、生成文法であれ、その他どんな立場であれ)を用いてなぜそうなのか、そうでないのか、を明らかにしようとするものまで幅は広い。ここでは私の独自の研究方法とその成果を用いて、英語をより深く理解するためにいかに役に立つかを語ってみようと思う。

西口講師:膠着語の一つである日本語は、欧米の言語に比べて文を作る際の決まり事が非常に限られており、既に共有している事柄は省略されるのが通常である。故に、一定の注意を払えば初習者でも「文法的に不正確でない発話」を行うことが容易である。本発表では、そのような日本語の性質を生かした基礎日本語教育のカリキュラムと教材を紹介し、そこでの学習と学習指導の原理について論じる。

成田講師:日本人にとって英語の習得が難しいのは言語差だけではない。現に日本語は漢字を除けば欧米人にとってもそんなに難しくはない。英語は発音が激変し厳しい構造制約があるだけでなく、日本語にはない(数の一致やWH移動など)「瞬時の計算処理」の必要な操作があり、発話時の過重な負担となる。文法を定着させ半自動化することが、コミュニケーションの条件になることを明らかにしたい。

更新日:2013/02/03

第4回英語教育総合学会シンポジウム概要

第4回英語教育総合学会シンポジウム概要(文責:企画委員 名和俊彦)

シンポジウムは、言語習得とその過程に関わる研究と理論、習得を円滑かつ効果的にする教え方等の複数の領域に亘るので、英語教育に携わる者にはそれぞれ何かを得ることのできる有意義なものでした。質疑応答は活発で、熱の入った議論になりました。シンポジウムの発表概要とコメンテイターの説明の概要は次の通りです。



白井恭弘(ピッツバーグ大学)「英語で授業をすることの理論的意味と留意点」

言語能力には「文法能力」「談話能力」「社会言語学的能力」「戦略的能力」があり、この4つの能力を習得する必要がある。言語習得にはインプットだけではなくアウトプット(実際に話さなくても頭の中でリハーサルすることも含む)が必要であり、アウトプットにより自分の発話または書いた文が正しいかどうかの自己チェック(気づき)を伴う、言語ルールへのfeedbackが自然な習得を促進する。たとえば、学生の書いた英文を添削して返却しても学生に「気づき」がないと全く効果はない。次に重要なことは、意味のわかる文を大量に処理することにより、母語話者のような文法的、意味的な瞬間的予測力が身に付く。複雑なルールをすべて明示的知識として習得するには無理があるので、自動化には限界がある。



成田一(大阪大学)「英語で授業を行う条件―文法力と音声教育」

英語で授業を行なうには、「文法と読解・作文と音声」の教育により聴解能力の基盤を築くことが実施の前提である。日本国内の日本語の環境の中ですべて英語で授業を行なっても、英語での授業について行けない生徒を増やすだけである。英語で効果的な授業を行なうためには、文法や構文、語の微妙なニュアンス、用法の違いを日本語と対照的に日本語で説明することが必須である。系統の異なる言語の学習においては、その言語と母語との言語的距離を考慮に入れるべきであり、会話を学習の中心にするだけで英語の運用能力がつくというのは短絡的である。「読む」を主、「書く」を従の目標とした日本の伝統的英語教育は目標を達成しており、これに音声教育を充実させることが英語教育の本道である。海外の外国語習得理論は、対象とする学習者の母語の系統、学習環境が日本の場合と異なるので、そのまま日本の英語教育に応用するには無理があり、日本語という言語と日本の学習環境にふさわしい英語教育を考えるのが最善である。主要な文法事項と発話の仕組みと方法を明示的に学習し、繰り返しによる練習、多読や速読等によって英文の処理能力と聴解能力が向上し、文法処理の自動化も推進される。これらの能力の有機的向上が英語で授業を行なう確固たる基盤となる。



磯辺ゆかり(和歌山大学)「フォーミュラ連鎖と言語処理の自動化」

フォーミュラ連鎖とは、2語以上で構成される慣用的語連鎖で、心理的に1つの単位として保持・検索されるものである。フォーミュラ連鎖をしている語連鎖と非フォーミュラ連鎖の語連鎖、非文法的語連鎖の3種類に関して、日本人EFL学習者の学習到達度の上位群と下位群に分けて、語順の適確性を判断させるテスト、適確な音読ができるかどうかのテスト、親近感を持って3種類の連鎖を知覚できるかどうかという親密度テストを行なった。語順適確性判断テストでは、フォーミュラ連鎖が他の連鎖よりも短い時間で反応できた。音読テストでは、音読潜時においてフォーミュラ連鎖が他の連鎖より有意に短く、発話速度においても有意に速い。これら2つのテストにおいて、フォーミュラ連鎖の誤答率は他の連鎖より有意に低い。親密度判断テストでは、フォーミュラ連鎖の親密度は他の連鎖の場合より高い。以上の3つのテストより、フォーミュラ連鎖による認知負荷の軽減が、言語処理の効率化をもたらすと考えられる。さらに、単語レベルを超えた語連鎖に対する親密度が言語処理の効率化に影響する可能性がある。



釣井千恵、山科美和子、ハーバート久代(関西学院大学)「多読・速読による運用の自動化」

多読には、達成感、reading speed & fluencyの向上、語彙定着、直読直解による理解力の向上等の効果が挙げられるが、新たな知識の獲得というよりは既習の知識の自動化・効率化に効果が期待できる。リーディングプロセスは、ディコーディング(下位プロセス)と理解(上位プロセス)から成る。ディコーディングには(1)眼球停留による文字認知、(2)語彙処理、(3)音韻符号化がある。理解は(4)統語解析、(5)意味処理、(6)スキーマ処理、(7)談話処理を通して為される。fluent readersは単語認知から即理解に向かうが、そうでないreadersは下位処理がディコーディングで留まる。これは、眼球運動の研究からも確認される。単語認知の自動化を向上させることで、より高次な処理に向かうリーディングが可能になる。関西学院大学国際学部の第1外国語としての英語は、精読(Reading 1)で学んだ上で、多読(Reading 2)で学ぶようになっている。Reading 1の目標は「中級レベルの英文の正確な理解」「語彙、文法、構文などの言語知識の習得」「頻出語彙、構文の下位処理の自動化」「リーディングストラテジーの習得」である。Reading 2では「流暢な読み」「平易な英語で書かれた本の多読と読みの習慣化」「下位処理のさらなる自動化トレーニング」を目標としている。



森庸子(同志社大学)「意図と気持を伝えるリズムとイントネーション」

日本人学生の発話と米語母語話者の発話のそれぞれの音韻特性を分析した結果、次の2点に大きな相違が見られる。1点目は、意図と気持ちを伝える英語は、米語母語話者では聞き手に最も伝えたい箇所をゆっくり伸ばしながら高いpitchから低いpitchまで下降するが、一方日本人学生では文頭にくる機能語や代名詞、接続詞を高いpitchで発音する傾向が強く(Initial High Pitch)、日本語の発音の仕方がそのまま英語に転移したイントネーションである。このような日本語式発音の干渉を防いで、意図と気持ちを伝える英語のイントネーションの指導として、文頭の機能語や代名詞は低く弱く発音し、内容語(動詞)の所で上げて、強調したい箇所、相手に伝えたい箇所で、そして文末の内容語でゆっくりと高いpitchから低いpitchまで下降させる必要がある。2点目は、米語母語話者は長短の繰り返しでリズムを作っているが、日本人学生の場合、強勢の有無に対応した高低の繰り返しによるリズムになっている。このことから、意図と気持ちを伝える英語のリズムの指導として、機能語の母音を短縮して内容語の母音を伸張して、米語母語話者のリズムに近づける指導が効果的である。



池嶋伸晃(大阪府教育委員会)「『英語で授業』への学校の取組―使える英語のプロジェクトを通じて―」

平成15年3月に「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」が打ち出され、平成21年に『高等学校新学習指導要領』の「授業は英語で行うことを基本とする」が英語教育界や社会で大きく取り上げられ、平成22年に「授業のすべてを必ず英語で行わなければならないということを意味するものではない」という主旨の解説が施された。これは生徒ができるだけ多く英語を使うことに重点があるということであり、文法指導は日本語を使っても構わない。「オーラルコミュニケーションⅠ」(普通科)の授業では、「発話のほとんどを英語で行っている」のは19.6%、「発話の半分以上を英語で行っている」のは32.8%、「発話の半分未満を英語で行っている」のは41.2%というのが、平成22年度の状況である。「使える英語プロジェクト事業」(平成23~25年度)は公立の小学校・中学校・高校を対象とし、「訳読の授業を変える」「英語の4技能を使う機会を与える」「さらに伸ばす」「教員を鍛える」という4つの目標を柱にしている。高校生の海外研修、国内外での国際会議への参加、スピーチ・デベートコンテスト、海外からの国際交流の受け入れ等の授業外での英語活動やAdvanced Classの開設、TOEFL・TOEIC® の受験機会の提供、教員研修のそれぞれの項目に予算を計上している。このプロジェクトでは、プロジェクト型学習の導入の他、タブレット端末を利用した個別学習と協同学習、学年を越えて英語Ⅰの教科書を繰り返し使用し、「使える英語」を身に付けさせる指導法を導入している。プロジェクトの実施校では高校生の英語力の向上がTOEIC®のスコアーからも伺われる。平成23年度から「公立・私立高校、高等専修学校に対して「実践的英語教育強化事業」が実施されている。また、同年度から「大阪府国際化戦略アクションプログラム」も実施されている。



コメンテイター:門田修平(関西学院大学)

学習には顕在学習(explicit learning)と潜在学習(implicit learning)がある。顕在学習は海馬を介した、言語化できる意識的学習であるが。一方、潜在学習は、基本的には海馬を介しない、反復により徐々に技能や動作の仕方などが蓄積される学習である。事例学習(exemplar learning)からルール学習(rule learning)という顕在学習を経て、反復により自動性・流暢性を獲得ができるという3段階のモデルが考えられる。流暢性には認知的流暢性、発話の流暢性、流暢性についての知覚があり、このうち認知的流暢性を実現するための処理能力は心理言語学的能力とも呼ぶべき能力である。この能力は、コミュニケーション能力(文法能力、社会言語能力、発話能力、方略的能力)に加えられるべきであり、コミュニケーションに支障をきたさないように、一定の時間内(通例1秒以内)に反応すべく、自動的かつ流暢に処理を行なう能力である。