更新日:2011/12/06

第2回 英語教育総合学会

旧「英語教育総合研究会」

日時:12月17日(土)13:00-17:30
場所:大阪大学 大学院 言語文化研究科 新棟 2F 大会議室(豊中キャンパス)


シンポジウム
「動き出した小学校英語活動」

-小中連携の言語的基盤-

コーディネーター・司会:成田一(大阪大学)

特別講演「小学校英語活動から日本の英語教育を考える:Reading Recoveryの視点から」高梨庸雄(弘前大学名誉教授)

「小学校英語の今後を展望する」河原俊昭(京都光華女子大学)

「欧州・アジアと日本の小学教員養成と小中連携」林桂子(広島女学院大学)

「小学校英語活動で伸ばしたいコミュニケーション能力」安達理恵(愛知工科大学)

「小中連携プロジェクト型外国語活動」東野裕子(西宮市立高木小学校)

「小学校英語に言語獲得期を生かせ!-脳の機能特化と自動化-」成田一(大阪大学)

全体討論 (「OBK児童英語講師自己研鑽の会」の報告あり)

参加費:500円(菓子飲料提供) 参加資格:なし、一般の方の参加歓迎。学会年会費:無料。
問い合わせ:大阪大学 成田研 narita@lang.osaka-u.ac.jp
懇親会 場所:言語文化研究科 旧棟大会議室 費用:教員1000円、院生800円

シンポジウムの理念

今年度から小学校における外国語活動が正式に開始されたが、文科省は「言語や文化について体験的理解を深めるとともに」「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成する」ことを目標に掲げ、英語の構造・仕組みやその運用技能を教えることを避けている。実質的な研修を行うこともないままに教員の英語力が著しく乏しいという実態を織り込んでいるのだ。諸外国のように言語獲得期の自動言語習得機能を活用することは期さない。媒体となる言語を習得することなく、どうやって外国語活動の中でコミュニケーションを行い、異文化の体験的理解を深めるというのだろうか。そもそも母語で図れないコミュニケーションをどうして外国語活動で図れると考えるのだろうか。子供の潜在的言語習得能力を生かせない現状は極めて残念だ。シンポジウムでは、言語習得理論を踏まえた上で、小学校における外国語活動を現在の制約の下で少しでもより実りあるものにする「新たな試みと理論」を取り上げるが、さらに中高大への連携も視野に、日本における英語教育のあるべき姿について、運用英語偏重で社内英語化の愚に陥り兼ねない世間の風潮に流されることなく、根本から考え直してみたい。

講演概要

高梨講師 大学に入ってからリメディアル教育をやっても遅すぎる。“落ちこぼれ”を最小限にする努力は、指導開始と同時に始めるべきである。それがReading Recoveryの早期治療の理念である。政府がその予算を惜しまなければ、一人当たり生涯数百万円の税金を無駄遣いしないで済むという計算もある。日本の英語教育の定期検診で必要なことは何かを考えたい。

河原講師 小学校の英語教育は学習指導要領の改訂に伴い外国語活動として開始された。始まったばかりだが、その行方をアジア諸国の動向を見ながら探っていきたい。アジアの国々では、日本と比較して、早くから小学校の英語教育に取り組んできた。そこから、どのような英語能力の児童が誕生しているか考えて、あわせて日本の英語教育の将来をも考察したい。

林講師 講演では、教員養成の基本となる(1)外国語教育目標と小中連携、(2)教員免許状取得のためのカリキュラム、(3)修業年限と教育実習について、欧州ではESL環境に近く、英語力の高いオランダ、スウェーデン、フィンランド、そしてアジアでは日本のEFL環境に類似している韓国、台湾、中国を取り上げ、日本の教員養成の問題点について考察する。

安達講師 小学校の外国語活動の目的は、英語スキルの向上ではない。しかし、推奨されている「英語ノート」は、英語教育に近い内容となっているため、担任教員の負担が大きく、課題となっている。講演では、これまでの児童の動機づけなどの情意面を調査した結果を報告しつつ、英語教育に拘らない“総合的なコミュニケーション教育”を提案したい。

東野講師 外国語活動では、「英語絵本の読み聞かせをしよう」等の課題を解決するため、児童が個人やグループでゴールを設定し、単元的なまとまりとして、各教科等と同様、担任が主となる授業が最適である。この種のタスク型の活動がプロジェクト型外国語活動であり、児童は英語を使う必然性を感じ、主体的・創造的な活動が結果的に言語習得を促進する。

成田講師 日本人が母語とはかけ離れた英語をストレスなく運用できる能力を身につけるには言語獲得期における脳の自動言語習得機能の活用が最も効果的な切り札になる。だがそれには諸外国のように、英語力のある教員による小学低学年での指導が不可欠で、日本のように英語力のない教員に教科書も与えずにその役割を担わせるのは無謀かつ無責任である。

OBK会長池亀葉子講師 10月10日「児童英語」の是非を巡り、大津由紀雄慶大教授と「対決型ワークショップ」を行い、「児童英語の害」などの見解を伺った後で、会場参加者を交えて討議した。「英語は危険なおもちゃだ」「いや、母語と英語の両方を豊かにできる」「発音はちゃんと教えているんですか?」など、白熱の議論の様子を報告し、本シンポジウムでも皆さんと討議を深めたい。



※上記内容のポスター版(A4)をダウンロードできます。( doc ファイル)
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※関連記事『新英語教育』3月号、4月号(2011年)をダウンロードできます。( pdf ファイル)
『新英語教育』3月号「英語の社内公用語化は浅はかな思い込み!」
『新英語教育』4月号「日本の英語教育はどうあるべきか」

※関連記事『朝日新聞:私の視点』2010年9月18日( jpg ファイル)
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