更新日:2013/11/25

第7回 英語教育総合学会

日時:12月14日(土)13:00-17:30
場所:神戸女学院大学(デフォレスト館2F 208教室)

シンポジウム
激動する日本の英語教育
-「英語で授業」と「小学校英語教科化」の先に-

特別講演「小学校英語の問題をどう考え、行動すればよいのか」大津由紀雄(明海大学)

「小学校英語教育の歴史から学ぶ」江利川春雄(和歌山大学)

「地殻変動する日本の英語教育―二つの道の収束に向けて―」成田一(大阪大学)

「英語保育園の取り組み」ウェイン・キム(キンダ―キッズ)

「関西学院初等部の英語教育」植松知奈美(関西学院初等部)

「音声と文法を身体で繋ぐ児童向け指導法」池亀葉子他2名(OBK児童英語講師自己研鑚の会)

全体討議

参加費:700円 茶菓子提供。
一般の方の参加歓迎。直接会場にお越し下さい。駐車場はありません。
問い合わせ:事務局 orchid-e [AT] kcc.zaq.ne.jp (メール送信の際は [AT] を @ に変更してください)

シンポジウムの理念

日本の中高の英語教育は、コミュニケーション偏重の中、文法・語彙だけでなく発音教育までが軽視され英語基盤が脆弱化したが、高校で「英語での授業」が始まり現場は混乱している。自民党の教育再生実行本部は、「大学入試を見直し、実用的な英語力を測るTOEFL等の成績を受験資格および卒業要件とする」ことを提案し、文科省は小学英語の教科化を表明している。シンポジウムでは、大学、中高と小学校における英語教育に対する政治や行政の動きの問題点を理論的、歴史的観点から検討するとともに、私立幼稚園や英語保育園、私大付属小学校の英語教育の展開の動向と児童英語教育実践を踏まえ、2020年代の「日本の英語教育の姿」も展望しつつ、激動する英語教育の現状への対応を考えたい。

講演概要

大津講師:高学年限定の「英語活動」という形で、最悪の事態を避けることができたと思ったのも束の間、再び危機が迫ってきた。いま、我々はどう考え、行動すればよいのかを考える。

江利川講師: 小学校英語教育は明治期から実践されたが、目的論、教師の力量、開始年齢、時間数、小中連携などの諸問題が噴出し、廃止寸前に追い込まれた。その教訓から謙虚に学びたい。

成田講師:大学入試や卒業要件にTOEFLを導入する政治的な動き、文科省の小学英語教科化の動きが加速する中、私立幼稚園などでは英語保育が広がりを見せる。英語教育の現実的な将来展望を描きたい。

キム講師:1歳4か月~就学前の子ども達に5年間継続の英語保育プログラムを提供。子ども達が楽しめることを第一にしながら、真のバイリンガルを輩出する年齢相応のカリキュラムをご紹介。

植松講師:「興味・関心から学ぶ気持ちを育て、自ら伝える力を養う」、「楽しさのみに留めず、基礎的な英語スキルを身に着けさせる」ことに主眼をおいた独自プログラムの作成・実践を紹介。

OBK講師陣:クラスカルチャーを創るNPO法人グラスルーツの1部門OBKによる「生徒自らが気づき、知識―身体―心を繋ぐ」日本語話者のための英語教育の実践と教材作成を紹介。

第6回英語教育総合学会概要 / アンケート感想


大谷康照 (大阪大学名誉教授) 「この国の言語教育政策を考える ― 対症療法から原因療法へ ―」

四則演算において日本の生徒がよくできるのは、数学的能力が秀でているというよりもむしろ日本語という言語の特性が四則計算に有利に働いていることに起因する。日本のTOEFLの得点の低さは、非印欧語文化圏の国々、非欧米植民地や植民地経験のない国々に共通しており、日本の英語教師が努力を怠っているということではない。四則計算の優秀さとTOEFLの得点の低さは、言語差を考慮に入れて議論すべきものである。さらに、教育政策条件の改善として、フィンランドのような教師の専門職としての確立と保障や、国家予算からの教育費増、授業時間数増、クラスサイズの縮小が必須である。



江利川春雄 (和歌山大学) 「超国家企業と政治家が破壊する学校英語教育」

教育政策は教育の専門家集団が立案すべきであり、教育について素人である財界・グローバル企業からの短絡的な意見を教育政策に反映させるべきではない。2000年の経団連の構想が2002年に文科省の「戦略構想」となって現われている。「成長戦略に資するグローバル人材育成」はTOEFLを基準にした無謀な計画であり、この無謀さは語彙の難易度を他の検定試験と比較しただけでも一目瞭然である。安倍内閣の第2期教育振興基本計画や大阪市教育振興基本計画は英語教育や検定試験の難易度について全く配慮のないものである。中教審外国語専門部会では議論もされないまま「授業は英語で」ということが高校新学習指導要領の柱となっているのは問題視すべきである。学習指導要領の成果と問題点を十分に検証した上で、改訂するというやり方をすべきである。さらに、教育政策の喫緊の課題は、OECD平均並みの教育予算、クラスサイズの削減、専任教員の増員、ICTを含めた教育環境の充実、周辺アジア諸国の言語を含む複言語・複文化主義への移行である。小人数クラスでの授業改善が可能となり、現実に、小人数クラスでの協同学習が、生徒全員の学力向上と人間関係の育成に成功を収めている学校がある。



成田一 (大阪大学名誉教授) 「『英語で授業』と『入試にTOEFL』で壊れる現場 ― 言語差と脳内処理が日本人の英語運用に影響 ―」

言語獲得期内の言語習得と言語獲得以降の言語習得には大きな隔たりがある。また、母語と外国語の言語差が大きいとその外国語の習得は難しい。言語差の小さな言語習得では、文法構造や語彙、音調、リズム、音調パターンも酷似しているので習得し易いが、日本語と英語には大きな言語差があり、日本人が英語習得に大きなハンディーを負っていることは脳生理学的にも言える。従って、基盤英語力がないままでコミュニカティブ・アプローチを導入するのは間違いである。言語能力のコアは文法力であり、文法訳読の成果を無視して、文法訳読を否定・排除するのは大きな間違いである。文法と語彙、発音の基盤が培われなければ、コミュニケーションは成立しないし、コミュニケーション能力が培われるということもない。基盤英語力が身に付いている場合には「英語で授業する」ことには問題はないが、これから英語を学ぼうとする生徒に「英語で授業する」ことは授業についていけない生徒や英語嫌いの生徒を増やすことになるだろう。TOEFLに全く無知な議員がTOEFLを受験資格及び卒業要件にすることを提案しているが、TOEFLは海外の大学での勉学が可能かどうかの英語力の検定試験であり、日本の大学の受験資格や卒業要件にするのは大きな間違いである。フォニックスに関して、中学生でもフォニクッスの学習で英語嫌いになる生徒がいるのに、小学校でフォニクッスを教えるのは小学生にとってなおさら過重負担になる。言語獲得期にある幼稚園児や小学生を対象とする早期英語教育を行なえば、中・高でコミュニケーションの授業が可能になる。小学校で英語力の習得が期待できない場合には、中・高で文法・音読を含む総合的な訳読式で基盤を構築し、大学で定型的でないコミュニケーションと討議を目標とする英語教育が日本人に相応しい。



佐渡正英 (熊本県立荒尾高等学校) 「『英語で授業』への対応の現状」

担任業務の煩雑さ、少子化による高校間の学力格差の増大、生徒のコミュニケーション力の低下等がある中で、新課程が始まり、今年度1学期では中学校既習事項の復習やクラスルームイングリッシュによる指導と定着化を行なった。100%英語で授業するのはトップ校でも見られない。「英語での授業」は、教師の資質によって授業内容に格差が生じている。「英語での授業」にはいくつかの問題があるが、どの教師も英語の音声面にも関心を持つようになったことが1つの長所である。「英語での授業」の実施の中で、文法説明の多い教科書を採択する高校が多く、また生徒には辞書以外に学習英文法書や単語集を持たせている。「英語での授業」に関わる懸念は、大学入試問題の動向、TOEFL導入と新課程との整合性、TOEFLによる学校の序列化・格差拡大である。国際交流や異文化理解の機会を増やして生徒のモチベーションを上げる努力をする他に、教師の研修制度の充実やICT環境の整備、教師の負担軽減が必要である。



松岡徹治 (関西家電メーカー) 「実務では英語より専門性が重要」

会社ではTOEICの点数が昇格の際の目安になっているが、実際にはTOEICの点数よりは実務能力が重要である。TOEICの点数は、点数を上げるためのトレーニングで上がる。しかし、TOEICの点数が上がったからといって実務能力が付くわけではない。また、組織で業務を遂行する場合には人間力(尊敬される人格、人徳)が必要である。ビジネスでは、英語を話す能力よりも英語書く能力の方が大きく物を言う。初学者には只管朗読等による量的学習が必要であり、文法を系統的に学習し、読む力と書く力を鍛えることが、社会に出てビジネスに携わる時に実務能力の向上に直結するので、英語教育には只管朗読等による量的学習の指導と文法学習の指導を要望したい。

文責:名和俊彦



第6回 英語教育総合学会 アンケート感想

行政に振り回され、授業準備の時間がない
データに基づいていて面白い
政策に教師が声を上げるべき
民間教育、個人教育への指摘がなかった
ひどい行政
オーラル中心は誤り
センター試験は良い
発表減らして焦点絞って欲しい、小中の教員に広がらないのが残念
韓国語を学んだ友人の上達は早い
小学校ではシステム作りが遅れ、やらない方がいいのでは?
英語教師が過労死しないよう声を上げたい
母語で作った生徒との関係を英語で出来るのか聞きたかった
自分なりの方向性が見えてきた
企業の話も面白かった
今後も続けて欲しい
データに基づいた点が良い
データを基にして良かった、企業の視点も参考になった
小学校では母語でコミュニケーション能力を高め国際理解を深めるべき
文科省はアホばかりだとわかった
他県の高校の状況がわかって良かった
それぞれ論点が明確だった
大学へのTOEFL導入反対意見が反映されるのか不安だ
政策上の問題点がわかった、様々な選択肢が増えて欲しい
若いからITを活かして欲しいと言われるが、やりたい事とやって欲しい事が相反する。