更新日:2012/11/11

第4回 英語教育総合学会

旧「英語教育総合研究会」

日時:12月2日(日)13:00~17:30
場所:大阪大学 大学院 言語文化研究科 A棟 2F 大会議室(豊中キャンパス)

シンポジウム
「英語で授業する技術」
―運用自動化を目指して―

コーディネータ・司会:成田一
コメンテーター:門田修平(関西学院大学)

特別講演「英語で授業をすることの理論的意味と留意点」白井恭弘(ピッツバーグ大学)

「英語で授業を行う条件―文法力と音声教育―」成田一(大阪大学)

「フォーミュラ連鎖(慣用句)と言語処理の自動化」磯辺ゆかり(和歌山大学)

「多読・速読による運用の自動化」釣井千恵/山科美和子/ハーバート久代(関西学院大学)

「意図と気持ちを伝えるリズムとイントネーション」森庸子(同志社大学)

「「英語で授業」への学校の取組―使える英語プロジェクト―」池嶋伸晃(大阪府教育委員会)

参加費:800円(菓子飲料提供)
懇親会費:教員1000円、院生800円 年会費無料
一般の方の参加歓迎。直接会場にお越し下さい。
問い合わせ:大阪大学 成田研 narita@lang.osaka-u.ac.jp

シンポジウムの理念

平成25年度から高校では「英語での授業」が実施されるが、いろいろな問題が生じる事態が懸念される。まず、日本語で行ったきたレベルの授業を英語で行うだけの運用力のある教員が絶対的に不足している。また、進学校や予備校・塾で文法力や読解力を鍛えている生徒と違い、公立校の中間層以下の生徒の英語力低下が著しい現状において、どれだけの生徒が「英語での授業」にまともについて行けるのかが危ぶまれる。学校の側にも、大学への合格率を維持する障害になるなど、様々な理由で「英語での授業」を額面通りに実施することが難しい事情がある。
日本の英語教育がコミュニケーション偏重へ転換する流れの中で、文科省が「英語が使える日本人」を掲げ、文法教育を軽視されたことから、外国語として学ぶ英語力の基礎となる文法力が低下し、「ゆとり教育」を経てさらに一段と脆弱化の道をたどってきた。また、教室の現場では、設定場面に頻出する定型的な表現を使った「コミュニケーション」まがいのやり取りに始終するのが実態だ。自由に発想し意見交換や討議するための言語基盤が育っていない。
シンポジウムにおいては、多読・速読や定型表現の学習、音調教育を通して、生徒が「英語で授業」を受けるのに必要な運用の自動化を図る方略と技術を紹介するとともに、「英語での授業」が理論的にどういう意味を持つのか、その効果的な実施には何が条件となるかについても検討するが、教育委員会や学校現場での取り組み状況についても情報を共有し、それぞれの学校での現実的な対応がいかにあるべきかを考えてみたい。

シンポジウム概要

白井恭弘講師:白井(2012)では「日本の英語教育は自動化をしない自動化モデル」として現在の状況を批判しているが、そこでの「自動化」の意味は何なのかを明らかにする。この「自動化」は「明示的知識」を練習によってスピードをつけて「自動的に」使えるようにする、という意味であるが、自動化さえすれば、自動化モデルでよい、というわけではなく、自動化モデル自体理論的には破綻しており、言語学習の本質である「インプット処理」によって自動的に使える英語力を身につけることが肝要であり、そのために、英語による授業は不可欠だという点を明らかにしたい。

成田一講師:コミュニケーション偏重の中で文法教育が軽視され、外国語として学ぶ英語力の基盤となる文法力が低下した現況で「英語での授業」を実践する危険性を理論的に考える。なお、英語とは全く異なる言語を母語とする日本人に対する思春期以降の英語教育では、「明示的知識」抜きに「インプット処理」による英語の自動化は困難であり、むしろ明示的な知識を基盤とした繰り返し練習による自動化モデルにある程度まで実効性があることを論じたい。

磯辺ゆかり講師:フォーミュラ連鎖(FS)が日本人EFL学習者の心内でどのように処理されているかを検証するために非英語専攻の大学生53名(TOEIC中級レベル)を対象とした語順適格性判断課題・音読課題データ・親密度判定課題を実施した。日本人EFL中級学習者は高頻度の語連鎖であるFSを心的に一つの単位として認識し、処理している可能性が示された。また、語連鎖に対する親密度がその認知過程を左右する一つの要因であることが示唆された。

釣井千恵講師ほか:多読には情意面、読解力、語彙力、各種テスト等において効果が見られるとの報告がこれまでにも多数ある。本発表では高校卒業程度の読解力を備えた中・上級英語学習者に対して、既習の知識を自動化・効率化することにより英語運用能力を高めることを目的とした多読指導の取り組みを紹介する。特に語彙認識や統語解析の自動化・効率化を促すための活動や、語彙処理能力を測定するテスト結果も示したい。

森庸子講師:英語では、話し手が最も相手に伝えたいと思う箇所(通常文末の内容語)で、大きくピッチを変化させながらゆっくりと強く発音する。しかし、日本人英語学習者は日本語イントネーションの影響から、文頭を高く文末は低く短く発音する傾向にある。また、日本語のリズムの影響から、英語の長短リズムも苦手である。音声実験結果から明らかになったこれらの日本人学習者のリズムとイントネーションの問題点を詳述し、その改善策を紹介する。

池嶋伸晃講師:平成25年度入学生から実施される高等学校新学習指導要領では「英語の授業は英語で行う」ことが明記されている。大阪府教育委員会ではこれに先立ち、「使える英語のプロジェクト事業」を実施。国際社会や今後の時代を見据えた上で、大阪・日本の子どもたちの確かな学力を育むことに加え、府立高校生の英語コミュニケーション能力のさらなる向上を図ることを目指している。本講演では、プロジェクトの概要や研究校の取り組みを紹介する。