更新日:2025/12/10

第24回 英語教育総合学会

日時:131日(土曜日)1330分から1630

場所:オンライン開催

シンポジウム『英語教育ー時代を超えて』

コーディネーター&パネラー:成田一(大阪大学)、蔦田和美(関西外国語大学)

特別講演『非母語英語の時代における「国際英語」教育』日野信行(大阪大学:追手門学院大学)
1340分~1430分)

AI時代の英語エッセイ指導:スピーキングを取り入れたレベル調整の試み』小田登志子(東京経済大学)
1430分~1510分)

『立命館大学プロジェクト発信型英語プログラムにおけるAIの活用』後藤秀貴(立命館大学)
1510分~1550分)

休憩1550分~1555分)

パネル討論:全体討論15551630分)

 

参加費:無料、参加申し込み期限125日:学会HP参照。

問い合わせ先:事務局orchid-e@kcc.zag.ne.jp

https://forms.gle/vw9Yh87MEX19WAfZA

にアクセスのうえ、125日までに参加申込をお願いいたします。128日までに当日開催用ZoomIDをお知らせします。なお、講演はYouTubeで配信予定。

 

シンポジウム『英語教育ー時代を超えて』要旨

特別講演『非母語英語の時代における「国際英語」教育』日野信行

英語が母語話者の枠組みを超える「国際英語」という現象は、日本では特に関心が強く、1970年代からすでに注目を集めている。また今日、インターネットでの言語使用をはじめとして非母語英語を含む多様な英語が身近な存在となり、この現実を反映する形で、学界においてもEIL, ELF, WE, GE等の視点から国際英語の研究は世界的にきわめて盛んである。この情勢の下では、国際英語の教育的側面についてある程度の知識を持つことは、今や英語教員に不可欠な素養の一部となりつつあると言えよう。本講演では、国際英語の教育に長年取り組んできた者として、理論と実践の両面から、「国際英語」教育の重要なポイントを提示したいと思う。国際英語による多文化共生の理念から、国際英語の教材・教授法・モデルの態様、実際の授業実践、さらに「国際日本語」の可能性やAIの影響等についても言及したい。

AI時代の英語エッセイ指導:スピーキングを取り入れたレベル調整の試み』小田登志子

学生が英語エッセイを作成する際に、AIが出した難しい英語表現を利用し、自分自身が内容を十分に理解していないことがある。これは望ましい姿ではない。水本(2025)が提唱するように、AIの力を借りてもよいのは、学習者自身が読んで理解できる範囲(Receptive Competence)の英語である。学生にAIの利用を許可しつつ、自身の習熟度にふさわしい英語を取捨選択させるにはどうすべきか。本発表では、スピーキングを取り入れた英語のレベル調整の試みについて報告する。学生に英語エッセイを課す際、AIの使用を許可しつつ、エッセイを音読した録音の提出、授業内でエッセイの内容を確認する質問への口頭回答を求めた。すると学生は上手に読めない英語や質疑応答で困るような内容を避けるようになった。さらに、質問役をAIに委ねると、質問が豊富になり、対話の臨場感が増した。発表では、質問役をAIに委ねる際のコツや対話に教員が介入すべき場合についても考察する。

『立命館大学プロジェクト発信型英語プログラムにおけるAIの活用』後藤秀貴

本発表では、立命館大学プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)におけるAI活用について、「プログラムとしての取り組み」と「教員個人の実践」という二つの観点から報告する。PEPでは、全受講生が利用できる機械翻訳サービスの提供やAI活用ガイドラインの作成・運用に加え、教員同士がAIに関する情報や意見を気軽に共有できる環境づくりを進めている。一方で、各教員はこうしたプログラム全体の枠組みを踏まえつつ、担当クラスで自身の裁量によりAIを活用した指導実践を行っている。本発表では、共通英語科目におけるAI活用の組織的な取り組みが、教員個人の実践とどのように相補的に機能しているのかを検討する。急速に発展し続けるAIを教育で活用していくにあたり、個々の教員の創意工夫を尊重しながら、組織(プログラム)としての教育の公平性・一貫性をどのように維持・担保していけるのかを、参加者とともに考えるきっかけとしたい。

更新日:2025/06/15

第23回 英語教育総合学会

日時:7月21日(月)1330分~1720

場所:オンラインで開催

シンポジウム『AI活用は基盤が在ってこそ!』

基調講演:成田一(大阪大学)(13:30~)

特別講演「社会脳インタラクション能力とは何か?」門田修平(関西学院大学)(14:00~)

「大学英語教育における生成AI活用に必要な英語力」吉田信介(関西大学)(14:40~)

(休憩15:2015:30)

AIに使われない英語使用のためには何が必要か」金丸敏幸(京都大学)(15:30~)

「生成AIと共存する英語教員に必要な力」伊計拓郎(帝塚山学院大学)(16:10~)

全体討論(16:5017:20)

 

参加費:無料、参加申し込み期限7月17日:学会HP参照。

問い合わせ先:事務局orchid-e@kcc.zag.ne.jp

https://forms.gle/M5HYxqXz18Qp781C8

にアクセスのうえ、7月17日までに参加申込をお願いいたします。720日までに当日開催用ZoomIDをお知らせします。なお、講演はユーチューブで配信予定。


シンポジウム『AI活用は基盤が在ってこそ!』

基調講演:成田一(大阪大学名誉教授)

この数年で企業ではすっかり生成AIが実務に入り込み、大学や高校でも生成AIが取り入られているが、英語の授業に関してみると、作文などで学生には思いつかない英訳表現が提示される面では、AI翻訳が参考になることが多い。しかし、AI翻訳はいわば「ブラックボックス」の中で遂行され、日本語文をその英訳に訳出するアルゴリズムが示される訳ではないので、これにより学生が自らその英訳を生成する能力を獲得することはない。所定の日本語文を望ましい表現形式ないし文体で英訳するには、文法や文体論的な知識を学生が教師ないし書籍から学び、その知識を用いて英文を作成しなくてはならないのだ。

特別講演「社会脳インタラクション能力とは何か?」門田修平(関西学院大学名誉教授)

従来からのCCCommunicative Competence)に対して、対人的な社会的相互行為を遂行する能力をSBIC(社会脳インタラクション能力:Social Brain Interactional Competence)と呼ぶ(門田, 2023)。この能力を可能にする社会脳(SB)ネットワークについて、1) メンタライジング(mentalizing)と認知的共感、2) ミラーリング(mirroring)と情動的共感、3) 顔認識と視線(誘導)にもとづく共同注意(joint attention)の3つの観点から概観する。その上で、SBICを促進するインタラクティブ・プラクティスの実践例として、インタラクティブ・シャドーイング+要約の活動などについて、その方法について紹介したい。

「大学英語教育における生成AI活用に必要な英語力」吉田信介(関西大学名誉教授)

新学習指導要領の「エッセイライティング」では、「支援を活用しながら論理的に意見を述べる力」が求められている。アウトプット仮説(
Swain, 1993)では、ライティング中に表現の「穴」に気づくことが学習効果を高め、Mizumoto2023)では、生成AIが自律的な書き手の育成に貢献できるとしている。そこで、生成AI活用のライティング授業を実施した結果、AI活用には、1)具体的プロンプト、2)人間による検証、3)文体変換の適度な利用、4)校正機能による文法・語彙力強化、5)生成AIが英語力や発想を促す触媒となることが示された。一方、今後、多様な英語力の学生が生成AIを活用するにあたり、基盤となる英語力の設定が不可欠となってきている。本発表では、受講生のフィードバックを基に、1)CEFR 記述子と AI 推敲タスクの照合、2)メタ言語意識と誤りの理由の理解、3)語用論・文体調整タスクの3点から検討した結果、CEFR B1程度の英語力が必要であることが示唆された。また、翻訳ソフトを併用しても、誤訳検知や追加プロンプト作成などに、同程度の英語力が必須であると推察された。

AIに使われない英語使用のためには何が必要か

-語順を制する者がAI時代の英語を制する-」金丸敏幸(京都大学)

生成AI技術の普及により、外国語教育は根本的な見直しを迫られている。従来のコミュニケーション能力育成を目的とした教育では、手軽に高品質な翻訳が可能な現代において妥当性に疑問がある。本発表では、AI協働を前提とした新しい英語教育という観点から、「語順重視」のアプローチを強調する。英語の理解可能性(intelligibility)の条件は、主語・動詞の存在と語順の固定性に集約される。日本語話者にとって、格助詞に依存しない語順による意味理解は最大の課題である。新時代に必要な英語基礎能力として、構造認識能力、語順操作能力、AI協働型コミュニケーション技能を挙げ、段階的な導入と合わせて議論する。

「生成AIと共存する英語教員に必要な力」伊計拓郎(帝塚山学院大学)

生成AIが言語教育に与える影響は大きく、従来に比べて飛躍的に学習を促進する環境が整ったことは疑いようがないが、生成AIが英語教員の仕事を完全に代替するとは考えにくい。ただ、生成AIを効果的に活用するには一定の英語力が不可欠であるという点については多くの教育関係者の間で共通認識があるだろう。そこで本発表では、生成AI時代を生き抜くために英語教員に求められる力について、中高での実践経験を踏まえて、①英語力、②言語学的知識、③発問力の観点から考察する。具体的には、英語力向上を目指して取り組んできた和文英訳の実践例を紹介し、その中で得られた知見を共有する。さらに、生成AIは誤った情報をあたかも正しいかのように提示するハルシネーションを引き起こすことがあるが、言語学の知識によりそれを見抜けたという実例を提示する。最後に、生成AIにはないが教員に備わっている視点に着目し、生成AI以上に授業を魅力的にするためには発問力がますます重要になることを提案する。