日時:6月23日(日)13時30分~17時
場所:オンラインで開催
https://forms.gle/xiABRj2tUDquebfW8
にアクセスのうえ、6月15日までに参加申込をお願いいたします。6月20日頃までに当日開催用ZoomのIDをお知らせします。
シンポジウム『生成AIの英語教育への活用』
コーディネーター&コメンテーター成田一(大阪大学)
特別講演「大規模言語モデルと日本のAI研究」
「生成AI時代に求められるリテラシーとは何か ChatGPTによるパラダイムシフトと授業活用事例」
安松健(大阪教育大学)
「AI・機械翻訳と英語学習: 教育実践から見えてきた未来」
山中司(立命館大学)
「英語教育の歩みから考える生成AIと英語教育の未来」
上野舞斗(四天王寺大学)
現場報告
「中学生がAI翻訳に慣れ親しむための「ガイダンス的な内容」の授業実践」
佐野理絵(箕面市立第五中学校)
全体討論
懇親会(参加自由)
参加費:無料、参加申し込み期日ほか:学会HP参照。
問い合わせ先:事務局orchid-e@kcc.zag.ne.jp
講演概要
特別講演「大規模言語モデルと日本のAI研究」
ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルの出現は、人工知能の社会への浸透を加速するとともに、新たな研究開発の可能性をもたらした。その一方で、人工知能技術への過度な期待、その反動としての強い警戒感など、この技術を社会として受容していくのかに混乱も生じている。本講演では、この技術の限界と可能性を議論し、この技術をどのように使っていくべきか、また、その限界を乗り越えていくために、今後、どのような技術開発・研究の方向性をおこなっていくべきかを考える。
「生成AI時代に求められるリテラシーとは何か ChatGPTによるパラダイムシフトと授業活用事例」
生成AIをはじめとしたAIテクノロジーの進歩は近年目覚ましいものがあり、様々な社会活動現場に変化をもたらしています。歴史を振り返えれば、様々な技術の発達に伴い、私たち人間において重要となる能力は変遷してきました。それでは、これからの生成AI時代に求められるリテラシーとはどのようなものになるのでしょうか。この議論のためには、生成AIが従来の機械学習とどのように異なるのか、そのパラダイムシフトをまず理解することが肝要になります。データサイエンティストなどの専門家向け教育だけではなく、一般教養・普通科教育におけるAI・データサイエンス教育の重要性が高まっている背景にある生成AIによるパラダイムシフトについて、大学・中高生向けに実践してきた生成AIを活用した授業例とあわせて紹介します。
「AI・機械翻訳と英語学習:教育実践から見えてきた未来」 ChatGPTに代表される生成AIが社会に激震を与えています。昨今はマルチモーダル情報も扱えるようになってきましたが、元々は大規模言語モデルに基づくAIです。つまりChatGPTの発端は言語であり、したがってその最も得意とするところも言語の扱いです。これはChatGPTが最も影響を与えるであろう教育分野も言語教育であり、外国語教育はまさにその活用が期待される分野の典型であることを意味します。これからの社会を考えるにあたり、生成AIをはじめとするAIテクノロジーとどう共存し、どのような教育を実現するのかについては喫緊の課題です。生成AIが持つ革命的なインパクトは、大学英語教育はもちろん、日本人と英語との関わり方にも一石を投じるものだと思っています。当日はこのような背景をもとに、応用言語学の立場から、特に生成AIと英語との関係に焦点を当ててお話しさせて頂ければと思っています。
「英語教育の歩みから考える生成AIと英語教育の未来」
フェートン号事件以降、日本人が英語を学習しはじめて200年以上が経過しています。その中で、しばしば論争の的となってきたのが、「なぜ英語を学ぶのか」という目的論の問題です。誤解を恐れずに、あえて二分して言えば「実用論」「教養論」という観点があります。今回はこの点から「生成AIと英語教育」について考えます。実用論的な観点からの実践・活用法には先駆的な例が数多くありますので、こちらは他の先生方にお任せし、わたしは教養論的観点から「生成AIと英語教育」をどのように考えていけばよいのかということについて、実践例・活用例を紹介しつつ、皆さんとともにこの問題について考えてまいりたいと思います。
「中学生がAI翻訳に慣れ親しむための「ガイダンス的な内容」の授業実践」
教科書(Sunshine3・開隆堂)の題材としてAIが取り上げられており、生徒の関心も高い。生徒が「AI翻訳」という言葉に対して抱くhigh-techなイメージを端緒として、英語学習意欲を喚起する「ガイダンス的な内容」の授業実践を行った。ねらいは、生徒たちが将来AI翻訳を活用できるよう門戸を広げることである。実践対象は大阪府箕面市内の中学校3年生111名、授業形態は日本人教員1名が32名学級で一斉授業として行った。内容は一つの日本語の文を3種類のAI翻訳(DeepL,
Google翻訳、みんなの自動翻訳@Textra)にかけて、結果を比較するというものである。日本語の文は高校入試問題を使用した。
今回のシンポジウムは『生成AIの英語教育への活用』というものだが、特別講演「大規模言語モデルと日本のAI研究」では生成AIの基盤となる技術「大規模言語モデル」の軌跡をたどる。続く講演では、これを踏まえ、『生成AIの英語教育への活用』事例について議論を深めていただきたい。
特別講演講師の辻井潤一氏は京都大学助教授の頃、後に京大総長となる長尾真教授と共に、文科省特定研究『言語情報処理の高度化のための基礎研究』(1986~88)の総括班として数理言語学、言語学、国語学、英語学などの研究者を6つのテーマによる計画研究班6班に分けて研究を託し、最終成果のとりまとめを行なった。この特定研究に参画した研究者が日本の電子通信系企業において、ルールベースの翻訳システムの開発に従事した。私も長尾教授を委員長とする日本電子工業振興協会の機械翻訳専門委員会に学術顧問として参与しNEC、東芝、日立、富士通、三洋、リコー、シャープ、NTTほかの研究部長など企業委員と交流し、各社のシステムを評価し改善点を指摘した。
機械翻訳は、80年代後半のバブル期にルールベースの翻訳が電気通信系の大企業で初期システムが開発されるが、90年代の前半のバブル崩壊により(シャープを除く)大手企業の翻訳システム開発部門が解体される。一方、コンピュータも100~300万円台のワークステーションから20万円台のパソコンに替わり、大手では100万円以上していた企業向けの翻訳ソフトがノヴァやロゴヴィスタなどのベンチャー企業から10万円代の個人向けの安価な翻訳ソフトが売り出され、特に9800円の『コリャ英和』の発売を機に翻訳ブームが起こった。
その後、機械翻訳の研究は、(長尾教授が80年代中庸に提唱した)用例ベース、そして統計ベースへ変わり、ニューラル翻訳の深層学習を経て、近年の大規模言語モデルのAI翻訳へと飛躍を遂げるが、最初の基礎を築いたのは、科学論文抄録のための日英翻訳システムの開発を目指す通産省の『Muプロジェクト』(82~86)、特に文科省特定研究『言語情報処理の高度化のための基礎研究』(86~88)である。いずれも京大を中心とする研究だった。その意味で長尾真教授とともに日本の機械翻訳研究の基礎を築いた指導者であり、日本のAI研究の指導者である畏友辻井潤一教授(産業技術総合研究所に設立された人工知能研究センター・センター長で、マンチェスター大学教授を兼務)を迎えたシンポジウムを開催することは誠に意義深い。参加される皆さんも啓発されるところが大きいと思う。
英語教育総合学会会長 成田一(大阪大学名誉教授)