更新日:2010/10/19

第12回 英語教育総合研究会

JACET

日時:12月12日(日)13:00-17:00
場所:大阪大学大学院 言語文化研究科 新棟大会議室(豊中キャンパス)


シンポジウム
「英語運用力の底上げ」

―リメディアルとESPが鍵―

コーディネーター・司会 ― 成田一(大阪大学)
「学生の英語力を踏まえ社内英語を斬る  ―文法と発音をどこまで教えるか―」成田一(大阪大)
「英語力低下の実情と基礎教育  ―TOEIC Bridgeの効果的利用―」馬場千秋(帝京科学大)
「発音と文法指導を重視した言語スキルの統合教育  ―TOEICに見る劇的成果―」加藤映子(大阪女学院大)
「低い英語力を実務に使えるようにするESP」川越栄子(神戸看護大)
(特別講演)「英語学習意欲を高めるための幾つかの提言」竹内理(関西大)

質疑応答&全体討論「英語力を底上げし実務に対応」

参加費:300円(飲料等提供) 参加資格:なし、一般の方の参加自由。研究会年会費:無料。  
問い合わせ:大阪大学 成田研 narita@lang.osaka-u.ac.jp  
懇親会 場所:言語文化研究科 旧棟大会議室 費用:教員1000円、院生800円

講演概要

「学生の英語力を踏まえ社内英語を斬る-文法と発音をどこまで教えるか」 「社内英語化」には、外国語で話す際の①「脳内処理の負担」、②「思考レベルの低下」、③「発言の減少と劣化」、④「情報共有の危うさ」など、本質的な問題があることを指摘した上で、低迷する学生の英語力を底上げし実務対応力を育てるには、文法と発音に加えESP教育を施すことが有効であることを論じる。

「英語力低下の実情と基礎教育-TOEIC Bridgeの効果的利用」 近年,大学生の学力低下が顕著となり,中学,高校の学習内容を復習するリメディアル教育を行う大学が増えている。本発表では,馬場他(2010)が大学英語教員対象に実施した,一般英語授業の実情調査の結果をもとに,大学生の基礎教育のあり方およびTOEIC Bridgeの利用法について述べる。

「発音と文法指導を重視した言語スキルの統合教育-TOEICに見る劇的成果」 「読む」「書く」「聞く」「話す」という英語の4技能をバランスよく学ぶ習モデルの英語教育を行っている。また、「文法」及び「音声学」を必修として1年間の学習を義務づけている。英語学習の成果をTOEICで定期的に測定しているが、入学時から卒業時のスコアが飛躍的に伸びる結果について論じる。

「低い英語力を実務に使えるようにするESP」 ESP (専門に特化した英語) 教育は、医学・工学・法学を始め様々な専門分野で注目を浴びている。英語力が低い学生でも将来の職業に直結したESPであるとモチベーションが高まり大きな効果が出る事がわかっており、非常に効率的な英語教授法である。看護学生を例にESPの成功例を説明する。

「英語学習意欲を高めるための幾つかの提言」 英語学習者の Doing (行動部分)および Thinking (メタ認知部分)については、多くの研究がなされ、教育的介入の方法も広く論じられている。しかしながらFeeling (情意の部分)については、いまだ議論の途上にある。そこで、本講演では、英語学習者の Feeling 、その中でも動機と不安に焦点をあてて、教育的介入の方法について考えてみたい。

シンポジウムのコンセプト

文科省は、80年代初頭に文法の教科書を廃し、オーラル・コミュニケーション偏重に英語教育の方向を変え、リーディングの分量も大幅に削減してきた。2002年からの「ゆとり教育」では教育内容の大幅削減とともに中学の英語授業時間数を週3時間に削減し、追跡調査で見ても、中高生の英語力が一貫して顕著に低下してきた。新指導要領では「ゆとり教育」の修正が始まったが、英語教育がどうあるべきかについての基本認識ができていない。
「ゆとり教育」の時期には、経済界の声なども背景に「英語の使える日本人育成」という目標も掲げたが、英語を使う基盤となる文法・語彙力の育成はもとより口頭英語に不可欠な発音と聴取のための音声教育にはまともに触れようともしないし教員養成課程においても必修としていない。学校教育にこうした基盤の育成を図る指針も態勢も用意しないという無責任な行政を行ってきたのだ。 2009年には、高校では「英語の授業は英語で行う」という学習指導要領の指針も出されているが、基盤教育を疎かにしたまま「英語で授業をする」ことになれば、従来以上に英語嫌いや落伍者が増えかねない。こうした中、社員の英語力の実態を無視した社長の勘違いで「英語を社内公用語化」するという企業も現れているが、「思考と発言レベル」が低下し、業務上の「情報の正確な共有」と「自由闊達な議論」が損なわれ、社員がストレスで本務に支障をきたす恐れが大きい。日本語厳禁にして「沈黙の職場」と化した例もある。
日本の英語教育は危機に瀕しているが、「言語差」故に英語力を大幅に高めることは困難であるにしても、学生の英語力の低下の深刻な実情を踏まえ、「基盤能力を高める教育」とこれを「実務能力につなげるESP」、「学習意欲・効果を高める方略」について提案し、今後の日本の英語教育のあるべき姿を考えたい。